東京五輪エンブレム問題に関して、東京アートディレクターズクラブ(東京ADC)はいっさい発言せず、クラブとして沈黙を貫きました。東京ADCが沈黙し、無策であったということは、会員である佐野研二郎さんや博報堂出身者に集中したバッシングや加熱報道の状況をクラブとして黙認したことになります。
東京ADCが「クラブ」という組織体勢を理由に無策であったことを正当化しようとしても、東京五輪エンブレム問題の当事者や関係者(審査委員、入賞者、招待作家、出品者、組織委員会の仕事を請け負う広告代理店関係者)の大多数が東京ADCに属する会員であったという厳然たる事実の前では、無策が社会的責任の放棄であることは否めません。
東京五輪エンブレム問題は佐野さんひとりの問題ではないにもかかわらず、その人のイメージだけが鮮烈に記憶されましたが、あのとき東京ADCが組織力をもって何らかのアクションを起こしたならば、批判や関心がひとりに集中せず、少しは状況が変わっていたかもしれません。もう少し人権が守れたのではないかと思えてなりません。
専門家が沈黙したことで、専門家以外の人たちは戸惑い、デザイナーを志す学生たちは、何を信じれば良いのか路頭に迷ったのではないのでしょうか。とりわけ学生たちの困惑はいかばかりであったか、そのことを案じながらブログの執筆を続けてきました。当時の異常な状況で他者を巻き込まないために独りで発言してきましたが、個人としての発言行動には限界があったと今は感じています。
東京ADCは1952年の発足以来、公募という方法論を用いて作品を募り、会員たちの見識と評価軸によって同業者の仕事に優劣をつけ、広告業界やグラフィックデザイン業界の中でリーダーとしての影響力を発揮してきました。しかし今となっては、真のリーダーではなかったということを多くの人が感じているのではないでしょうか。
「何を今さら」という沈黙者たちの自己防衛や自己保身のための「言葉の暴力」に屈することなく、おかしいことをおかしいと言えない空気を打破するために、偽りではない真の信頼関係を築くために、自らの立脚点を明確にすべく、東京ADCを退会いたします。
平野敬子
2017年11月16日
2017年11月16日
1年に1度開かれる東京ADC委員会に上記退会届を提出し、受理され、11月16日(木)をもって東京アートディレクターズクラブを退会いたしました。
平野敬子
平野敬子 デザイナー/ビジョナー コミュニケーションデザイン研究所 所長
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める
お知らせ:2016年11月1日発売の『建築ジャーナル』(11月号)の特集「五輪を嗤う」に寄稿しました。
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