045 ブラック・デザイン

1年前の今ごろは、組織委員会の調査報告に対してブログで反論していました。それから1年後の今は、JAGDAの見解文書に対して反論しています。なぜこの場でJAGDA見解文書について言及しているのか。それは五輪エンブレム問題とJAGDA見解文書問題は同根の病理だと考えているからです。

五輪エンブレム問題が起き、1年以上の時を経る中で新たに知り得た様々な情報と考察から、当時は把握できていなかった問題の構造が、俯瞰で見えるようになりました。JAGDAに属する一部のデザイン専門家たちの私欲と思い上がりというものが、五輪エンブレム問題の元凶となったということを。そしてデザインが社会的信頼を失いました。

五輪エンブレム問題に関与した、社会的立場があるデザインの専門家たちは誰ひとり、社会に対して説明責任を果たしていません。それどころか「JAGDA見解文書問題」という、新たな問題を引き起こしています。社会的信頼を失墜させながら沈黙し、新たに不適正な問題を引き起こす。これでもデザインの専門家と言えるのでしょうか。

専門領域の危機的状況について問題意識を持たずして専門家とは言えないと思いますし、専門家であれば、問題を黙認すべきでないと考えます。情報が氾濫し、恣意的な情報操作が横行し、虚と実が交錯し、真実が見えづらい現代だからこそ、真の専門家が必要とされるのです。日頃、デザインについて饒舌に語ってきた人たちが、五輪エンブレム問題に関して沈黙という態度を貫くならば、真の専門家ではないことを自ら宣言していることに等しいのだと思います。

デザインの専門家集団であるはずの公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会「JAGDA」が、五輪エンブレム問題の当事者たちが主導する「JAGDA見解文書」という新たな不適正な行動を、組織の方針としてほう助するのであれば、五輪エンブレム問題は拡大し続け、JAGDAの未来は絶たれます。そして一連の不正行為を黙認したJAGDA会員には、「不正を不正と思わず、不正を肯定し、ほう助する非社会的な団体に属するデザイナー」というレッテルが貼られることになるでしょう。これは何を意味するか。この団体に集う人たちが、今以降デザインの未来を語り、デザインの理想を語ったとしても、「真の社会的信頼を得ることはない」ということを意味するのです。

再度「JAGDA見解文書問題」とは何かを要約して説明しますと、公益社団法人JAGDAの2016年度総会の場で、議事には成り得ない文書を、あたかも議事であるかのように見せかけた芝居がかった方法によって、見解文書が議事として公表され、議事承認が強行されました。その結果、承認を得る資格がない文書でありながら、一度は偽の議事承認を得ることになりました。このように総会での偽の議事承認によって「JAGDA見解文書」というお墨付きを得た文書でしたが、当ブログで4回(036章https://cdlab.jp/blog/?p=326 ~039章https://cdlab.jp/blog/?p=463 )にわたり、文書承認の不適切なプロセスを指摘したところ、その後8月12日にJAGDA事務局より、「‥‥誤解を招く進行‥‥(040章https://cdlab.jp/blog/?p=470> )」という、説明になっていない理解不能な文面とともに、(いったん議決された議事でありながら)議事ではなかったとの一方的な連絡が入りました。しかし、今もJAGDAホームページ上では、議事承認されなかったJAGDA見解ではない文書を「JAGDAの見解」と銘打って公表し続けており、相変わらず嘘に嘘が、詭弁に詭弁が塗り重ねられています。

「JAGDA見解文書」に対する抗議の表明として、私がJAGDAへ送った意見書、要望書、質問書の内容は、事実を書けば1日で回答できるような平易な質問ばかりでしたが、3ヶ月経った今もまともな回答はありません。いつ回答いただけるのかを事務局に問い合わせたところ、昨日、事務局長から「‥‥やはり、三役の最終確認が取れませんでした。年明け早々に連絡します。」と返事がありました。意見書を提出した会員への返信がないのは、「会長と副会長の三役の確認がとれないため」であるということは、要するにJAGDAの重要案件については、三役の確認が取れなければ事は動かせないということのようです。

このまま時が過ぎ、人々の関心が薄れることを目論んで、時間稼ぎをしているとしか思えない対応ですが、副会長主導による公益社団法人の総会での偽の議事承認という、前代未聞の不適正な行為は、本来であればこれを先導し、実行した当事者が自らの言葉で説明し、責任をとってしかるべき問題であり、時とともに風化するようなことではありません。

繰り返し言いますが、JAGDA見解文書問題は、文書の内容を論じる以前に、総会での偽の議決承認行動「イカサマ承認」が仕組まれたことが大問題なのであり、文書の内容を論議するまでもなく、即刻取り下げるべき類の事案なのです。

これほど不適正なプロセスが明らかになっていることでありながら、正当性を主張し続けるJAGDAという組織には、公益社団法人運営に必要な透明性と公正性が確保されておらず、一部会員の不正行為を隠蔽するためには嘘でも何でもありという、無法地帯の様相を帯びてきています。

このJAGDA三役と執行部と事務局の身勝手な思考回路と行動様式は、五輪エンブレム問題における組織委員会の行動様式と酷似しています。

五輪エンブレム問題に端を発し、JAGDA見解文書問題によってますます混迷が深まる状況でありながら、組織委員会にJAGDAが協力し、オリンピックに関わる動きがあると聞いています。このまま進んでいけば、不正を不正と思わないブラック公益社団法人によるブラック・デザインによって、東京2020オリンピック・パラリンピックが彩られることになるのです。

平野敬子

平野敬子 デザイナー/ビジョナー コミュニケーションデザイン研究所 所長
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める

お知らせ:11月1日発売の『建築ジャーナル』(11月号)の特集「五輪を嗤う」に寄稿しました。
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