002 公募期間の短さ

白紙撤回となった前回のエンブレム公募期間は、2014年9月12日~ 11月 11日の約2ヶ月間、エントリー(登録)後に応募要項が届くというシステムだったそうで、そのタイムラグを差し引くと実質の制作期間は最長で約1ヶ月半、さらに締め切りの数日前に応募要項に記載されていたパラリンピックのスペルミスが発覚するという前代未聞のミスもあり、人によっては制作期間が1ヶ月を切るという短さだったという事情を、エンブレム問題発覚後に出品者からお聞きしました。オリンピックのエンブレムクラスのデザイン開発期間が1ヶ月から2ヶ月というのは短すぎると考えますので、第一線で活躍されている出品者のみなさまが、多忙な日常業務のなかで時間捻出に苦労されたのではないかと想像いたします。

審査委員の依頼を受けたはじめての打ち合わせの際に、コンペの規定内容で気になる項目について質問しました。そのうちのひとつ、公募期間の短さについて質問したところ、依頼にみえた担当者から、「エンブレムの使用開始のタイムスケジュールと国際商標取得のための調査期間から逆算し、この期間になりました」との説明を受けました。本来ならば優先すべきデザイン開発の時間を下位に置いた結果、公募期間が圧縮されたと考えられます。これは公式スポンサーとの契約を優先したマーケティング主体の発想といえるのではないでしょうか。

デザイン開発の経験則として、「このような国際的な規模で展開するシンボルマーク開発の場合、制作期間が1ヶ月から2ヶ月は短すぎる、少なくとも半年から10ヶ月、最低でも3ヶ月の開発期間を設けるのが常識的だと考えます」とその場で担当者にアドバイスいたしましたが、今から決定事項の変更は難しいと聞き入れていただけませんでした。そもそも私への審査委員の依頼日が2014年9月3日、審査委員名や応募要項などの広報発表日が同年の9月12日、広報発表の9日前に審査委員を依頼されましたが、ここで辞退すると審査委員が7名になり、お困りになることは一目瞭然でしたので、断るという選択肢はないと判断し、当日に承諾したという経緯もあり、この背景をとってみても計画性の乏しさが伺い知れます。

再三にわたり、有識者の意見を聞きながら進めているとの説明を受けましたので、有識者なる方がデザインの専門家だったとすると、なぜ公募期間についての助言をしなかったのか疑問は残ります。もちろん組織委員会の公式会議で決定された公募期間が、権限のない私ごとき者の意見で変更になるとは思っておりませんが、コンペの成果をうむためには、公募期間を適正に設定すべきであるとの考えは今も変わりません。

次の公募に際し、10月6日の公式発表にて、締め切りが12月7日と発表され(応募要項は12日~16日に公表予定)、応募期間も前回同様に2ヶ月を切り、新たな公募も前回とほぼ同じ期間で進行しています。前回の審査運用における課題や問題は、充分に検証されているのでしょうか。

平野敬子

平野敬子 デザイナー/ビジョナー コミュニケーションデザイン研究所 所長
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める