026 届かぬ思い

2015年12月18日に公表された調査報告書の内容を読みました。疑問を記していきたいと思います。

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(疑問-1)
なぜ調査範囲と調査事項を、招待作家に関連する不正審査の新事実のみに限定するのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P5)
調査内容について
(1)調査範囲/参加要請文書の事前送付から入選作品の決定までの経緯について
(2)調査事項/以下の項目について検討した。
・8名のデザイナーに対する参加要請文書の発出
・参加要請と優遇措置の有無
・参加要請と当選作品決定への影響
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(疑問-2)
2014年12月17日~2015年4月7日の4ヶ月の間に行われた修正の経緯、「いつ、誰に対して、何回修正を行ったのか」については、公募・審査の経緯の中の重要事項であるにもかかわらず、なぜ記述されないのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P6-7)
2014年
11月18日【審査二日目】
・14作品を4作品に絞り、これについて審査委員全員で議論し、入選者1位、2位、3位を決定。
12月9日:エンブレム案をIOCへ。登録商標のための事前準備を開始。
12月16日:IOCから「類似する商標が複数確認された」との連絡。
12月17日以降 商標登録に向けた修正作業を実施
2015年
4月7日:組織委員会幹部に最終修正案を報告
4月27日:IOCの承認・国際商標調査開始
4月~7月:審査委員に説明・承諾(ただし、1名は不承諾)
7月24日:エンブレム発表
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(疑問-3)
なぜ高崎氏と永井氏以外の6名の審査委員と96名の出品者に、招待作家のことを知らせなかったのでしょうか。なぜそのことが広報されなかったのでしょうか。なぜ応募要項公開の3日前に参加要請文書を送ったのでしょうか。なぜ参加要請文書の文面に「ご内密に」との文言を記述したのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P10)
そして、マーケティング局長は、自らの責任において、自己の業務を手伝っていた者1名(以下「補助者」という。)に指示して、応募要項公開の3目前、前記8名のデザイナーに対し、審査委員代表とクリエイティブ・ディレクターの連名による参加要請文書を送付した。
この8名のデザイナーに参加要請をした事実は、その後に公開された応募要項に記載されておらず、組織委員会の広報でも一切公表されなかった。
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(疑問-4)
8名の審査委員のうちの2名が不正投票を行っていた事実が認定されたにもかかわらず、なぜ『出来レースであったという批判にはあたらない』との結論が導けるのか、何をもって『これがその後の審査に影響を及ぼした事実はなく、』と断言するのか、『影響を及ぼした事実はない』との根拠は何なのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P21)
1次審査における不正は、あくまで、1次審査限りにおいて、審査委員代表及びクリエイティブ・ディレクター以外の審査委員が一切関知しないところで秘密裏に行われたものであるから、これがその後の審査に影響を及ぼした事実はなく、佐野氏作品を大会エンブレム候補として決定するという結論に影響を与えたとは認められない。
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(疑問-5)
今回の調査で、出品者と出品作品を知っていたと認定された高崎氏が1位案を推す発言をしていたと記憶しております。この発言の場面の記録映像は確認したのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P21)
したがって、関係者の電子メールの精査結果、関係者のヒアリング結果、各審査委員の投票行動の検証結果から認められる事実関係からすれば、「佐野氏作品を当選作品とすることが予め決まっていた出来レースであった。」という批判にはあたらない。
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(疑問-6)
亀倉雄策賞の審査は、エンブレム審査の翌月に行われており、1位案制作者に招待作家を要請した時点では亀倉賞を受賞していません。よって、この記述自体が、時系列として事実と矛盾しているのではないでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P21)
なお、審査委員代表は、佐野氏を参加要請対象者に選んだのは、佐野氏は、日本のグラフィックデザイン界において最高の栄誉の1つとされる亀倉雄策賞の直近の受賞者であり、日本で最も力のある若手デザイナーの一人であると考えたためである旨述べており、その事自体に不合理な点は見当たらない。
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(疑問-7)
『参加要請対象者と接触した事実が認められる者が存在するが、‥‥不適切なやり取りがあったと認めるに足りる証拠は一切存在しなかった。』との根拠とは何なのでしょうか。ここで言うところの根拠とは、任意調査による自己申告の聞き取りのことでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P22)
審査委員の中には、参加要請文書発出以降、審査日までの間に、大会エンブレムとは全く無関係の業務に関連して、参加要請対象者と接触した事実が認められる者が存在するが、大会エンブレム選定に関して、不適切なやり取りがあったと認めるに足りる証拠は一切存在しなかった。
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(疑問-8)
『クリエイティブ・ディレクターは、検討すべき次点の作品を決めたい旨申し出た。』、『問題が生じたときは、審査委員に説明に回る。』と言ったとされますが、このふたつの発言についての記憶がありません。これら審査直後の高崎氏と審査委員の会話の多くは、私の記憶にない、もしくは内容が食い違っています。ここの会話は映像を確認した結果の記述内容なのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P23)
クリエイティブ・ディレクターは、佐野氏作品が審査委員全員一致により大会エンブレム候補に決定された直後、他の審査委員7名に対し、佐野氏作品について商標登録上の問題が生じた場合やIOCの承認を得られなかった場合に大会エンブレム候補として検討すべき次点の作品を決めたい旨申し出た。これに対し、審査委員から、「修正すればよいのではないか。」「1位の作品と2位の作品は根本的に違うので、1位が駄目なら2位のものにするというわけにはいかない。」旨の発言があったこともあり、佐野氏作品を大会エンブレムとして正式に採用できない事情が生じた場合の対応について、明確な方針を決めないまま、クリエイティブ・ディレクターが、「問題が生じたときは、審査委員に説明に回る。」旨発言して、審査委員会が閉会となった。
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(疑問-9)
「小さな不公平を隠れて実行した」の「小さな不公平」とは、具体的にどういう行為のことでしょうか。

(疑問-10)
今回の外部有識者の調査によって、組織委員会に属していた人々が組織委員会の人間として行った不正行為が認定されましたが、なぜ当事者でありながら、『組織委員会には全くそぐわない。』と、他人事のような書き方になるのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P28)
「最高のエンブレムを送り出すために、小さな不公平を隠れて実行した。」私たちの身の回りで起こる不祥事の多くが、この手の論理に彩られている。「大きな目的の為に不正を不正と思わない。」「良いものを作るためにとった行動。」聞き取りの中で繰り返された言葉には、「結果第一主義」にどっぷり浸かった仕事の進め方があった。しかし、手続きの公正さを軽視し、コンプライアンスに目をつぶる、なりふり構わぬ働きぶりは、現代のオリンピック・パラリンピック組織委員会には全くそぐわない。
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(疑問-11)
『専門家集団の発想で物事を進め、「オールジャパン」に最も大切な層である「国民」の存在を蔑ろにしてしまったところにある。』という記述に関して、この「専門家集団の発想」の「専門家集団」とは、いったい誰のことを指し示しているのか、具体的に固有名称をあげて説明していただけないでしょうか。不正行為を行っていない審査委員たちの名誉のために、この記述の意図と意味を説明していただかなければなりません。
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(組織委員会作 調査報告書 P28)
しかしながら、事はそのように運ばなかった。今回の問題に現れた最も大きな瑕疵は、「国民のイベント」、「国民に愛される大会エンブレム」ということに思いをいたさずに、専門家集団の発想で物事を進め、「オールジャパン」に最も大切な層である「国民」の存在を蔑ろにしてしまったところにある。大会エンブレムとして選ばれた作品がどんなに素晴らしいものであったとしても、選定手続が公正さを欠くようなことがあれば、国民の支持を得られるはずがない。
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(疑問-12)
『不適切な対応』とは、不正審査を行った事実のことでしょうか。

(疑問-13)
外部有識者による調査チームが、「最終選定に影響を及ぼすものではなかった」と結論づけていますが、「影響を及ぼさなかった」との結論は、何の根拠によって導かれたのでしょうか。
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(組織委員会作 調査報告書 P30)
○1次審査において不適正な対応があったことが明らかになった。
○エンブレムは、オリンピック・パラリンピック大会の象徴的な意味を持つものであり、この選考過程において不適切な対応がなされたことは、非常に遺憾である。
○調査チームの指摘のように、これが最終選定に影響を及ぼすものでなかったとしても、エンブレム審査全般に対しての信頼を揺るがせかねないものであった。
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国民のひとりとして、2020東京オリンピック・パラリンピックの成功を目指される組織委員会のこれからの活動を、心から応援していきたいと思います。偽りのないこととして、この思いがなければ執筆を続けることはできません。

平野敬子

平野敬子 デザイナー/ビジョナー コミュニケーションデザイン研究所 所長
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める